アルコール消毒に使われているエタノールは科学的に言うと炭素水素にヒドロキシ基が付いているものです。
エタノールの組成
構造式で言うと、炭素のCが2つ並んでそのCから上下にそれぞれ1個づつと左のCから左に1個、それぞれ水素のHがついています。本来のエチル基(エタノールになる1つ前のもの)は右にも水素が付いていますが、この水素のHをヒドロキシ基というものに置き換えてーOHとしたものがエタノールです。
エタノールはエチル基とヒドロキシ基でできているわけですが、一部真逆の性質を持っています。
- エチル基・・・疎水性で親油性(油に溶けやすい)
- ヒドロキシ基・・・親水性(水に溶けやすい)
水に溶けるエタノールは油も溶かすことができる両面を持っているのです。
エタノール消毒のしくみ
エタノールの消毒のしくみはタンパク質を変性させて消毒する、と言われますが、どういう状態でしょう。細菌の除菌と手指消毒で考えます。
細菌
微生物(細菌)は一番外側に細胞壁があります。ペプチドグリカンといって、多糖(NーアセチルグルコサミンとNーアセチルムラミン酸)とペプチド(アミノ酸)が網状になっています。糖なので親水性で疎水性のものは通さない性質です。網状だから多孔質とも言われていますが、外からの何かしらの侵入を防ぐのではなく、細菌の内側からの圧力に耐えている壁です。この壁がそれぞれの細菌の形を決めています。
その内側にあるのが細胞膜です。脂質が隙間無く二重の層になった薄い膜でここが外からの何かしらの侵入や内側が外に出ないよう防波堤の様にしっかり守る役目をしています。そして細胞膜は疎水性なので親水性のものを通しません。さらに細胞膜全体に広がるポリンというタンパク質が存在しています。
エタノールはこの細胞膜を破壊することで除菌や消毒を行っています。タンパク質の水素の結合部分を切断させることで、タンパク質を変性させます。
細菌もエタノールも親水性と疎水性を併せ持っているので、奥まで入り込んで守りの堅い細胞膜を壊すことができます。
手指
アルコール消毒は手などの肌荒れをおこすと言われます。これもタンパク質を壊すから、ということですが、こちらも詳しく調べてみました。
人の手指の一番外側は角質層です。厚さは場所によりますが、平均すると0.02mmくらいです。そして死んだ細胞の角質細胞が10~20くらいの層になって鱗のように重なっています。
この層になった状態の50%~70%は水分でミルフィーユのように水分層と油分層が重なった構造をしています。バリア機能や水分保持機能の役割をしており、その強力なバリアゆえに、プラスチック膜なみに水を通しにくくしています。
ここで、ふと。細菌と皮膚って似てる・・・。
水と油の両方の特性を持っていて、バリアが張られている状態はとても良く似ていると思います。その皮膚にエタノールで消毒したならば、角質層の大半は水分なのでヒドロキシ基の親水性が角質層の水分めがけて一直線、親和性があるので角質層に入り込んで細菌を除菌するついでにタンパク質を変性させます。
エタノールは細菌も皮膚も親水性と親油性の性質を生かして奥まで入り込むことで、タンパク質の水素の結合を切断し、結果、タンパク質を壊すので細菌は死滅し手荒れする、ということでした。
エタノールの注意点
除菌能力は改めてわかりましたが、メリットがあればデメリットもあります。
- 除菌だけでなく殺菌、消毒という言葉を使えるが持続性は無い。二次汚染防止にはならない。
- エタノールの濃度が低くなればなるほど水分量が増えるので、エタノール揮発後い水分だけが残り、そこが微生物の増殖の原因になることがある。
- 除菌、殺菌できない菌やウィルスがある。芽胞菌とノンエンペロープウィルスである。
- エタノールは脱水作用もあるため、プラスチックなどの材質が硬化するので対象物の材質に気をつける。
- エタノール臭がしばしばクレームなどにつながることがある。
- 引火性がある。
- 酵素阻害やタンパク質変性がある。
GSE(グレープフルーツ種子抽出物)で代用できるか
GSE水溶液とエタノールを比べると、代用品として全く問題なく使用できることがわかります。
- GSE(グレープフルーツ種子抽出物)水溶液の除菌可能な菌カビウィルスの種類は多く、アルコールではできない芽胞菌やノンエンペロープウィルスも不活化します。
- 除菌後の抗菌持続性が高く、二次汚染防止に力を発揮します。
- 刺激がなく、変性させることがないので、対象物を選びません。
- 引火性はなく危険物ではありません。
- 無臭です。
- アレルギーの誘発や皮膚への刺激がありません。
唯一エタノールにできてGSE水溶液にできないことは、雑品の扱いなのでエタノールのように「殺菌・消毒」の言葉が使えません。殺菌をしていたとしても薬機法で禁止されていますので「除菌・抗菌」とお伝えしなければいけません。